ANSAsportマフラー、体感レポート

              written by たか

5月22日月曜日、天気「晴れ」

午前7時前、何時ものように愛車の側に立つ。

何時ものようにドアを開け、体を車内に滑り込ませる。
レカロに体を落ち着け、上がっていたハンドルを下ろす。何時もと変わらない…

鍵を差込み、キーを軽く捻る。
軽いクランキングの音の後、エンジンに火が入る。
「ドルン!」
何時もと違う音…低く振動する空気…

しばらく暖気のためエンジンと排気音に耳を傾ける…
今までより少し低く、少し大きな排気音…

朝の空気は暖かく、窓を閉めている理由が無い。
窓を開ける…良い音だ…

アイドリングも安定し、ギアを1速に入れクラッチを軽く繋ぐ…
駐車場をゆっくりと出る…何時もとは違うフィーリング。
低速トルクが若干薄い、2,000回転までは前より気を使う…

民家を縫うように続く細い路地を回転数を上げないように進む…

狭い路地を抜け、広い道に合流する。何時もと変わらない交通量。
信号を右に曲がり、国道2号線に出る。
信号では先頭だった為、前に車は無い。
アクセルを踏み込む!低く吼える排気音!
フィーリングが軽い!ピックアップが若干早くなっている!
かなりの上り坂を飛ぶように加速する!
メーターは一気に5,000回転オーバー!
今までより少ない振動!

前に車が迫り、アクセルを抜く…
踏んでいる時より低く大きな排気音…ペダルに伝わる振動…

朝の渋滞を進む。
実用領域の2,000回転から4,000回転はトルクが厚い様な気がする。
市街地を抜け、車のスピードが上がる。
自然と踏み込むアクセル。思わず笑みが出る。
今までより加速が良い!

会社までの道を短いと思った。何時もは長く気の重くなる道が…
会社の駐車場に車を止め、エンジンを切る。
一瞬大きくなる排気音。

車から降り、後ろに回る。何時もと違うマフラー。
シルバーの外観にオレンジの内観!耳に残る排気音…
会社を休み、走り出したくなる心を押さえ車を後にする…

何時ものように仕事が始まった…
何時もと変わらない、何時ものようなルーチンワーク…

何時もと違うのは僕の心…

仕事が手に付かない… はやる心が隠せない…
あのマフラーが奏でる音が耳に残っている。
気持ち良い加速フィールを感じたいと体が疼く…

…自分の心と体を誤魔化しつつ机に向かう…

…「早く走らせたい!」
終業時間を告げる放送を聞きながら机に向かっている自分…
無常にも残業になった仕事…苛立つ心…

ようやく仕事が終わり愛車の側に立つ。
あたりはすっかり暗くなっている。
「7時半か…」
携帯の時計を確認し、ドアのロックを外す。

朝と同じ手順でエンジンに火を入れる。
待ち望んだ音が耳に飛びこんでくる。
思わずほころぶ口元…
「逆に良かったかも…」
帰宅ラッシュの時間も過ぎ、車の交通量が減っているはず。

暖気の済んだ愛車のクラッチを繋ぎ、ゆっくりと走り出す…
やっぱり低速トルクが薄い気がする…

会社の敷地から出る、一般道に合流する…
…やはり空いている…
道が空いているので自然とアクセルを踏み込む…
空気を振るわす排気音!さらに右足に力が入る!

気持ち良い!!
今までよりトルクフルな加速フィール、跳ね上がる2つの針!
3,000回転以上のフィーリングは今までより格段に鋭い!

県道から国道に入り、片側2車線になる。
他の車が何時もより邪魔に感じる。
アクセルを踏み込み、他の車を縫うように走る。
何時もよりペースが速い…

途中給油のためにGSによる。
給油口にノズルが差し込まれ、愛車の食事が始まった。
給油待ちの時間、車外に出て愛車を眺める。
シルバーの車体が水銀灯に照らされ、夜の闇に映える。
…良い車だ…
見なれない色を見せる後姿…前より太い2本のパイプ…
メッキ仕上げのパイプは中をオレンジ色に塗られている。
今までより刺激的な後姿…

給油が終わり、再び国道に出る。

自宅が近づく…そろそろ国道に別れを告げ、細い路地に入らなければ…
何時も曲がる交差点を直進する…
まだ車から降りたくない、もっと走りたい。
そうだ、あの峠に行ってみよう。

免許を取ってから何度も通った峠道。
Zに出会った時も一番最初に向かった峠…

自宅に背を向け、峠へ。
しばらく国道を走り、何時もの峠への入り口に差し掛かる。
峠に向かうつぎはぎだらけの道にハンドルを取られながらゆっくりと進む。
前後に車の影は無い、絶好の状況!

つぎはぎだらけの路面が終わり、荒れていない舗装面が見え始める。
それに合わせ、ゆっくりと星に向かって道が続く…

これから始まる通いなれたワインディングロードに備え、
体をシートに収めなおす。
路面の荒れが収まり自然と車速が乗ってくる。

「ん?」
ルームミラーに何か明かりが見えた。
後続車のヘッドライトのようだ。まだ遠い…

峠道の始まりを告げる左カーブを1つシフトダウンして進入する。
心地よい横Gを感じながらブラインドになった左側コーナーを通過。
目の前に長い直線が現れる。
以前と違うフィーリングを確かめるようにゆっくりアクセルを開けていく。
やはり吹けあがりが軽い。3速のまま直線を抜ける。
レブメーターが6500回転を指す頃、直線が終わり右曲がりのトンネルが現れ
る。
軽くブレーキを掛け、オレンジの光の中に侵入。

開けた窓から心地よい音が飛びこんでくる。
良い音だ…
音を楽しみたい為、車速を落とす。
アクセルを踏み、そして抜く。その度に心が踊る。

短いトンネルが終わり、又直線に出る。
オレンジ色に包まれたトンネルを抜け、再び闇を写し始めたルームミラーに白い
光が!
高い位置に有る2つの光源。トンネルの明かりに浮かび上がるシルエット。
シルバーカラーのセレナだ。

かなり接近してくる後続車。
これから始まるワインディングで離れていくだろう。

法定速度の5割増で本格的な峠道に入る。遅れずに着いて来るヘッドライト。
通勤路としてこの峠道を利用する者はどんな車でもかなり早い。
…地元か…

マフラーの感触を確かめるため、軽く流すつもりで来た峠道。
しかし…
以前は通勤路としてわざわざ遠回りして使用していた峠道。
古いとはいえ日本でトップクラスのスポーツカー。
そんな僕が、そんな美しいZがファミリーカーに貼りつかれる!
許されない!

マフラーが一際大きな音で吼える!
レブメーターの針が跳ね上がる!
自分の中の何かがカチッと音を立てる!

コーナーの進入スピードを上げていく。
コーナーにコーナーが繋がったようなツイスティーなワインディング。
右に左にと続くコーナーを睨み付け、掛け抜ける。

以前走った時とさほど変わらない感覚で進入し、アクセルを開ける。
以前ならきちっとグリップしていたリアタイア。
なのに今はシートに押し付けた腰にスライドを告げる!

中・高回転のトルクの上昇、音によるテンションの上昇。
マフラー交換で得られた効果をコーナーを抜ける度に感じる!

マフラーの交換はトルクとテンションの上昇以外にも恩恵をもたらした。
切り返し時のリアの収まりの速さ。
マフラーの重量が軽くなったせいなのか、リアの収まりが早い。

コーナーを抜ける度、にやける口元!
走らせる事に夢中になる。

気が付けば峠道の終了を告げる直線が目の前にある。
「楽しかった!」
ふとルームミラーを見る。
映し出すのは暗闇だけ…

愛車と自分をクールダウンするため、シフトアップし車速と回転を下げる。
法定速度で軽く流す。しばらく走るとルームミラーにヘッドライトが見えてくる

口元に笑みを浮かべ、交差点を右に曲がる。
ルームミラーに交差点をハイスピードで走る向ける銀色のワンボックスを確認す
る。

自宅に向かう道を愛車とゆっくりと進む。
星空に背を向け、人工の星が瞬く場所へ下って行く。

赤いテールランプが前に現れ、アクセルを抜く。
2,000回転付近でアクセルを踏むでもなく、抜くでもない状態になる。
音が気にならない。低音が少し聞こえる程度。
踏めば心地よい低音を響かせ、アクセルに足を添えるだけなら静か。
いいマフラーだな。

自宅の駐車場に着き、エンジンを止める。
峠での感触を思い返す。
「又走りたい!」
再びキーを回しかける心をなだめ、車から降りる。

グラマラスな後姿にアクセントを付けるオレンジ色のパイプが街頭に照らされ、
浮かび上がる。
いい買い物だった!
今まで以上にZに惚れこんだ男が翌日も峠を走ったのは当たり前の結果だっただ
ろう。
…………………………完…………………………